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気候がもたらす災害の増加と、政治的な行動の行き詰まり

Climate-fueled disasters rise, political action stalls

Paul Voosen

米国西部や欧州北部において壊滅的な被害をもたらした山火事。欧州南部を襲った記録的猛暑。南北両アメリカ大陸と東太平洋で発生したハリケーン、サイクロン、洪水。多くの人にとって、今年2018年は気候変動の影響を痛感させられた年となった。気候の影響による災害は、激しさを増すとともに長期化している。11月に発表された最新版の「全米気候評価(NCA)」で述べられている通り、「気候変動が人為的なものであることは火を見るよりも明らかであり……(しかも、)気候変動の影響は米国全土で増大しつつある」。

今年は最新の記録がいくつか破られることが予想されているが、それは毎年繰り返される容赦ない現象である。世界の海洋全体の温度(地球自体の温度を最も的確に示すもの)は、記録が残されるようになって以来最も高くなっている。海面水位は1990年代よりほぼ8センチメートル高くなっており、海面上昇は加速している。また、地球温室効果ガスの排出量は再び過去最高を更新し、昨年を2%以上上回るとみられる。

しかし、今秋発表された警鐘を鳴らす一連の科学報告書で並べ挙げられたように、証拠は増え続けているにもかかわらず、世界が行うべきことと実際に行っていることとのギャップは、かつてないほどに広域にわたり明らかになりつつあるように見受けられる。米国では、ドナルド・トランプ大統領が気候変動は人為的なものであるという科学的知見に異議を唱え、前大統領が制定した気候関連政策の大部分を後退させようとし、温室効果ガス排出を抑制することを目的とした国際的な取り決めである「パリ協定」から米国が離脱するという意向を貫いた。米国政府は、連邦議会が作成を命じて政府の科学機関が承認した報告書である「全米気候評価」を認めない態度さえ示そうとした。トランプ大統領は予想される経済への影響について質問されると「私はそうは思わない」と答え、大統領報道官のSarah Sandersは同報告書を「行き過ぎ」で「事実に基づいていない」と評した。「連邦政府は現実をねじ曲げています」と、マサチューセッツ州ファルマスにあるウッズホール研究センター長のPhil Duffyは話す。「彼らはラ・ラ・ランド(現実離れした世界)にいるのです」。

これは米国だけの話ではない。「毎年、米国では行動とリーダーシップが存在しないまま時が過ぎ、世界では言い訳をしながら後戻りする国が増えています」と、マサチューセッツ州メドフォードにあるタフツ大学の国際環境・資源政策センター長のSims Gallagherは話す。例えば、ブラジル次期大統領のJair Bolsonaroは、アマゾン熱帯雨林の開発を許可すると約束しているため、二酸化炭素(CO2)の大量放出を招くおそれがある。中国は炭素排出よりも大気汚染などの問題に再び注力するようになっており、欧州連合(EU)でさえも内部の混乱に気を取られている有様である。

何十年にもわたってほとんどあるいは全く行動を起こさなかった代償は、「自然災害」から「自然」という言葉が次第に消えつつあることに現れている。最悪の結果になるのは、気候に及ぼす人間の影響と、リスクのある場所に住もうとする人間の傾向とが合致する場合である。カリフォルニア州を襲った記録的な山火事を例にとれば、山火事「キャンプ・ファイア」では少なくとも86人が死亡し、パラダイスという町が灰燼に帰した。気温上昇と夏季の降水量減少によって米国西部では乾燥度が高まり、厳しい干ばつが長引いたせいで、森林や低木林が発火しやすくなっている。今回の大規模な山火事では、1970年の山火事と比べて2倍の面積が焼失した。今世紀半ばまでに、この地域で発生するすべての山火事により焼失する面積は6倍に跳ね上がると推定されている。「このように火事の規模は大きくなり、燃え広がる速度は速くなり、しかも長期化しています。これは疑いようのない、明らかな事実なのです」とDuffyは話す。

米国東海岸では、バージニア州ノーフォークのような低地にある都市は、海面上昇とはるか昔に起こった氷床後退による地盤沈下とがあいまって、満潮時には洪水に見舞われている。しかも、晴天の洪水が発生しないときは、暴風雨が発生する。今年は2017年から息つく間もなく、いくつもの超大型ハリケーンが襲来した。テキサス州ヒューストンを昨年襲ったハリケーン「ハービー」と同様、今年のハリケーン「フローレンス」には地球温暖化の影響を示す多くの徴候が見られた。フローレンスは急速に激しさを増し、陸上をのろのろと進み、ノースカロライナ州の海岸は前例のない大雨により水没した。

こうした影響は米国沿岸部にとどまらない。今年最も強力であったスーパー台風「マンクット」は、フィリピンを直撃して地滑りを引き起こし、少なくとも66人の死者が出た。英国では、人為的な温暖化によって体力を奪うほどの夏の猛暑が30倍も起こりやすくなっており、今世紀半ばまでに、英国はこうした猛暑に2年に1度襲われるようになるとみられている。同様の猛暑によってカナダでは今年90人以上が死亡した。近年みられる海面の急上昇(現在は1年に3.9ミリメートル上昇)のために、太平洋島嶼国は危機に瀕しており、今年発表された複数の研究により、波浪による冠水のために数十年以内にはこうした島々の多くは人が住めなくなる可能性が示唆されている。

この10月には、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」(世界の主要な気候研究者が数百人参加している国連後援の団体)が、工業化以前の水準からわずか1.5℃上昇(地球の大気温はすでに1℃上昇していることを考えると大差はない)した場合の地球温暖化による影響について、厳しい見解を発表した。報告内容の中には、あと0.5℃温暖化すれば世界のサンゴ礁の多くが死滅する、というものもあった。一部の地域では、大雨と焼けつくような猛暑がますます激しくなる。北極圏の海氷は急速に後退する。そして、気温上昇をその水準に保つには、炭素排出量を大幅に減らすとともに、大気中からCO2を積極的に除去する取り組みが必要である、とこの報告書は述べている。

「2040年までに気温上昇は1.5℃にまで達します。あと20~30年しかないのです」と、同報告書の筆頭著者の1人であり、英国オックスフォード大学の気候力学研究者であるMyles Allenは話す。理論上はまだ可能性はあると、Duffyは付け加える。「しかし目標を達成するには、(世界が)いま変わる必要があります。しかし、変わる様子は見られません」。

たとえ地球温暖化が再び世界の注目を集めたとしても、問題の解決は容易ではないであろう。世界は、温暖化を2℃以上ではなく1.5℃に抑えた場合の、コストと利益を天秤にかけなければならない、とAllenは言う。「政治的な話としては今後、次の世代にどれだけ負担をかけるのかという問題に移って行かざるを得ません」と彼は話す。しかし、アーバナにあるイリノイ大学の大気科学研究者であり、「全米気候評価」の筆頭著者であるDon Wuebblesは、その負担はすでに重くのしかかっていると言う。「パラダイスの話はもうしません。パラダイスはもはや存在しないのです」。

原文(英語版)はこちらから