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ホモ・サピエンスの起源が遡った

Deeper roots for Homo sapiens

Ann Gibbons

 モロッコの洞窟で発見され、長い間、見過ごされてきた頭骨化石が今年の再調査によって現生人類(ホモ・サピエンス)の化石記録を遡らせることになり、ホモ・サピエンスの起源論争に火をつけた。研究者たちが発表した30万年前という驚くべき年代は、最古のホモ・サピエンスとして、広く受け入られてきたエチオピア出土の化石群よりも10万年も古い。

 この化石は1961年に鉱山作業員たちによって発見され、「アフリカのネアンデルタール人」に属すると長い間、考えられてきた。というのも、ネアンデルタール人や他の古代型ホモ属がもつ、いくつかの原始的な特徴が認められたからだ。1本の歯の放射年代測定からは、16万年前と推定されていた。

しかし、顔面が前に突き出さずに頭蓋骨の下に収まっているなどの現代人的な特徴も複数みられたので、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の古人類学者Jean-Jacques Hublinはこの化石に強く引きつけられた。これは非常に初期段階のホモ・サピエンスなのではないだろうか、そうだとすれば、従来の推定年代よりももっと古くてもおかしくないはずだ。

とりあえず、この化石が産出した地層から、年代測定が可能な堆積物をわずかでも掘り出そうと、Hublin率いるチームは、マラケシュ(モロッコ)から100km西方のジェベル・イルードの崩壊した洞窟を再発掘した。彼らが発見したのは、堆積物だけではなかった。新たに、少なくとも5個体分の頭蓋骨片、顎の骨、歯や手足の骨というボーナスまで付いた。

化石群と一緒に見つかったフリント製の石器群を熱ルミネッセンス法で年代測定したところ、28万年~35万年前と判定された。これは改良を加えた放射性年代法により、新たに測定された歯の年代値、28万6,000年前と矛盾しない。そして、ホモ・サピエンスが少なくとも30万年前に誕生したとする、アフリカ人のDNA分析が示す結果とも食い違わない。

33万年~30万年前にはアフリカ全土に拡散し、現代人へと進化していった、初期のホモ・サピエンスの大集団がいて、交雑も行われていただろう。ジェベル・イルード人は、この集団の一部だったとHublinらは考えている。初期ホモ・サピエンスの起源は従来説よりも古く、アフリカの広い地域に及んでいた可能性がある。最古段階のホモ・サピエンスの新たな化石探しにも、弾みがつくかもしれない。