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宇宙の集会:2つの中性子星の合体に何千人もの観測者が夢中になり、いくつもの宇宙物理学上の予測が立証された

Cosmic Convergence : The merger of two neutron stars captivated thousands of observers and fulfilled multiple astrophysical predictions

Adrian Cho

8月17日、世界中の科学者が、これまで見たことのない天体現象を目の当たりにした。1億3千万光年の彼方で2つの中性子星が互いにらせんを描いて合体し、壮大な爆発を起こしたのである。この天体現象は、ガンマ線検出器から電波望遠鏡にいたる様々な観測装置を用いて研究された。この爆発現象の観測により、いくつもの重要な宇宙物理学上のモデルが立証され、多くの重元素の生成場所が明らかになり、また、これまで実現できなかったような一般相対性理論の検証が行われた。この中性子星合体の初観測と、観測により得られた科学的な収穫物を、サイエンス誌は2017年の「今年のbreakthrough」に選んだ。

 特に注目すべき点は、この天体現象が発見された方法である。中性子星が合体する直前にらせん運動する際に放出した、重力波とよばれる、時空のゆがみにより生じる微小な波紋の検出により、この天体現象は発見された。重力波の人類初検出は、わずか27ヵ月前のことである。Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory(レーザー干渉計重力波観測所[LIGO])により、2つの大質量ブラックホールが互いにらせんを描いて合体する、電磁波で観測できない激変現象により生じる時空の振動が感知された。重力波の発見は、サイエンス誌の2016年の「今年のbreakthrough」であった。

 昨年の観測が発見のファンファーレだとしたら、今年の観測は科学の交響曲である。その違いは、電磁波で観測できる物質の存在にある。ブラックホールは、巨大な星が崩壊して生じる特異点に残る、実体の見えない重力場であり、物質が加熱され放射する様子が観測できない。これに対し、中性子星はほぼ純粋な中性子からなる球であり、この世で最も密度の高い物質が観測できる状態で存在する。ブラックホールの衝突は重力エネルギー以外では観測できないのに対し、中性子星の激突は光のショーであり、それが70以上の観測器で研究された。「1つの天体現象から引き出しうる情報量に圧倒された」とLIGOチームの代弁者で、アトランタ・ジョージア工科大学の物理学者であるLaura Cadonatiは語る。

 らせん運動をする中性子星からの重力波は、ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンにある巨大なLIGO検出器だけではなく、フランス・イタリアが共同運用するイタリア・ピサ近郊のVirgo検出器でも観測された。Virgoが5年にわたるアップ・グレードを終えて、観測を始めて17日目のことであった。研究者たちは、2つの中性子星が合体に向けてらせん運動している信号を受信していることを直ちに理解した。ブラックホールの合体では秒単位の継続時間で変動する低周波数の重力波を生じるのに対し、より質量の小さい中性子星連星は高周波数の信号を発し、その振動数と強度は数百秒間にわたり増幅した。

 その重力波の増幅は、花火の合図であった。2秒後に、NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡がショート・ガンマ線バーストの信号を検出した。それに続き、他の望遠鏡も重力波源にねらいを定めた。重力波は離れた場所に位置する3つの検出器によって発見されたため、研究者たちは、三角測量により中性子星連星の位置を知ることができた。11時間のうちに、いくつかの可視光・赤外線天文学者のチームが、系外銀河NGC4993の端に新たに生じた光源を発見した。数日間にわたってその光源は、明るい青から暗く赤い光へと弱まっていった。そして11日後に、重力波源はX線と電波で増光し始めた。この爆発現象は、天文学史上で飛びぬけて最もよく研究された天体現象となった。953の研究所に所属する3,674人の研究者が共著で、この中性子星合体とその余波に関する研究を1報の論文にまとめた。

 これらの観測により、25年前に提唱された、中性子星合体によりショート・ガンマ線バーストが発生するという仮説を支持する結果が得られた。また、赤みを帯びていく残光は、キロノヴァとよばれるモデルとよく一致した。このモデルによると、中性子星の衝突合体によりr過程として知られる一連の核相互作用が生じ、中性子を多く含む物質が宇宙空間に放出される。r過程により、鉄より重い元素の半分が生成されると考えられている。最も重い元素は青い光を吸収し、合体した中性子星の周囲に広がる放射性のガス雲を赤くするのである。「概念に過ぎなかった事象が現実のものとなっていくのをまのあたりにして、非常に興奮している。このモデルはすべて、基本的には観測的検証のない理論に基づいていた」と、キロノヴァ・モデルを提唱した、カリフォルニア大学バークレー校のDaniel Kasenは語る。今回の観測は、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論をも支持する結果を得た。重力波が、他の理論が予想したように、光速よりも遅い速度では伝搬せず、一般相対性理論が予想したように、光速で伝搬することを証明したのである。

 一方で今回の中性子星合体は、宇宙物理学者がさらに多くのデータが欲しくなるような謎ももたらした。例えば、ガンマ線バーストは驚くほど弱かった、とイリノイ州エバンストンのノースウェスタン大学に所属する、LIGOチームのメンバーであり宇宙物理学者のVicky Kalogeraは語る。ショート・ガンマ線バーストは、合体した中性子星から幅の狭いジェットが光速に近いスピードで、サーチライトのように放たれる際に生じると考えられている。ガンマ線バーストが弱かったことに対する最も単純な解釈としては、ジェットが地球の方向を向いていなかった、と考えることができる。しかし、宇宙物理学者たちのモデルが正しくなく、中性子星合体により弱いガンマ線バーストしか生じない、という可能性もある、とKalogeraは語る。この問題を解決するためには、宇宙物理学者たちはさらに多くの中性子星合体を観測する必要がある。

 また宇宙物理学者たちは、中性子星が互いにらせん運動して合体する瞬間まで重力波を観測したいと考えている。今回の初観測でLIGOとVirgoの検出器は、中性子星が加速しながら互いにらせん運動をし、徐々に高い周波数の重力波を放出する様子を追跡した。しかし1秒約500回転を超えたところで重力波の周波数はLIGOの感度の限界を超え、合体にいたる最後の数回転を検出することができなかった。

 最後の数回転が観測できれば、中性子星、すなわち、太陽よりも少し重たいが20~30キロメートルの大きさしか持たない純粋な核物質の球体の性質を知ることができただろう。宇宙物理学者たちは、中性子星を構成する物質がどのくらい硬いか柔らかいか、すなわち、いわゆる状態方程式で表される性質を知りたいと考えている。原理的には、重力波によりその情報が明らかになる。物質がより硬ければ中性子星はより大きくなり、共にらせん運動をするより早い段階で互いにばらばらになり、信号を変化させる。「状態方程式を決めるためは、合体する瞬間まですべてを観測する必要がある」と、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に所属する天体核物理学者のJames Lattimerは語る。研究者たちは、例えば、巨大な検出器を巡るレーザー光を操作することにより、LIGOのより高周波数側の感度を改善したいと考えている。しかしそのような改善は、数年を要するかもしれない。

 科学者たちはまた、中性子星とブラックホールの合体のような、理論的には稀だと示唆されている、新たなタイプの現象を観測したいと考えている。天の川銀河中の個々の星の超新星爆発もまた、検出可能な重力波を放出すると考えられている。超新星爆発からの重力波が観測されれば、宇宙物理学者は、星がどのように爆発するかを解明する手がかりを得ることができる。パルサーと呼ばれる高速回転する中性子星は、定常的な重力波の振動をまき散らしているかもしれない。今後数十年間で科学者たちは、宇宙に重力波検出器を打ち上げたいと考えている。これが実現すれば、銀河中心の超大質量ブラックホールの合体から放出されるような、低周波数の重力波を検出することができるようになるだろう。

 最もわくわくするのは、宇宙物理学者たちが全く予想していなかった信号の検出である、とカリフォルニア州パロアルトのスタンフォード大学に所属する理論宇宙物理学者であるRoger Blandfordは語る。「予想に反する信号の検出を願っている」。