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がん治療薬の射程圏

A cancer drug’s broad swipe

 Jennifer Couzin-Frankel

 ついにこの時がやってきた。がんの生じた臓器別ではなく、そのDNA異常のパターンに基づいて効果を発揮するがん治療薬の登場である。5月に米国食品医薬局(FDA)は、初めてそのような薬剤を承認した。その薬剤の名はペムブロリズマブで、メルク社が製造し「キイトルーダ」の名称で販売している。今回の5月の承認前にすでに、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)や複数のがん種への治療の承認を得ていたが、今や大人も子供も含めたあらゆる進行固形腫瘍で、ある特徴を有するものであれば投与可能となった。その特徴とは、「DNAミスマッチ修復異常」という奇妙な名称で呼ばれている状態である。これは、膵臓・大腸・甲状腺その他あらゆる臓器を問わず発生したがんの中に、DNAを修復する遺伝子の異常が存在する状態である。

 FDAの今回の承認は、がん治療に大きな転換をもたらす。その理由として、異なる臓器に出現したがんに共通する因子のほうが、同一臓器に出現するがんで共通する因子よりも多い場合があるのに、この知見を治療に生かすのはこれまで容易でなかったためである。この点についてのbreakthroughは2015年に訪れた。米国メリーランド州ボルティモアのジョンズ・ホプキンス大学のLuis Diaz医師(現在はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター在籍)率いる医師団は、大腸がん患者へのペムブロリズマブを用いた臨床研究を行った。彼らの示した結果は驚くべきものであった。ペムブロリズマブは、腫瘍に対抗する免疫システムを活性化する「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬剤であるが、DNAミスマッチ修復異常を有する13症例のうち8症例の腫瘍にこの薬剤で縮小がみられ、残りの症例のうち4症例で腫瘍の進行が抑制された。これに対して、DNAミスマッチ修復異常が認められない大腸がんの25症例においては、この治療に反応しなかったのである。この理由として、DNAミスマッチ修復異常があると腫瘍にDNA変異が幾百となく起こり、免疫システムが腫瘍細胞を異物と認識しやすくなり、そして腫瘍細胞を退治するのであろうと医師団は推測した。

 ジョンズ・ホプキンス大学の先のDiaz医師やDung Le医師、そして多くの研究者たちにより6月に公表された研究では、12種の異なる腫瘍を含む86症例の、いずれもDNAミスマッチ修復異常が認められる、状態のよくない患者へ治療を拡張し、53%の症例でこの薬剤の効果がみられた。こうした研究も後押しとなってFDA承認となった。このがん治療戦略に沿って続くであろう数多くの薬剤の、今回が第1号となることを、腫瘍治療に従事する医師たちは願っている。