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時空のさざ波:Scienceの2016 Breakthrough of the Year

The cosmos aquiver: Science's 2016 Breakthrough of the Year

時空のさざ波「重力波」の発見は、今年の科学界を揺るがした。アルベルト・アインシュタインによる100年前の予測を裏付けるこの発見は、40年にわたる小さなさざ波を探す旅を締めくくるものであった。しかし、話はこれで完結するわけではない。科学者らはこの発見を「重力波天文学」という新たな分野の誕生であるととらえている。

1915年にアインシュタインは、重力が生じるのは巨大な天体が空間と時間、つまり時空を歪めるからであり、その結果として、自由落下する物体は、投げたボールが描く円弧や太陽を周回する惑星が描く楕円軌道のような、曲線軌道を描くと説明した。さらにバーベル状に分布した質量がバトンのように旋回すると、時空にさざ波が発生し、光速で放射状に広がっていくはずだと予測した。これが重力波である。2月11日、「Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory(LIGO:レーザー干渉計重力波天文台)」という米国ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに設置された一対の装置で研究を行う物理学者らが、アインシュタインが予測した通りの現象を確認したと発表した。13億光年の遠方で、2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転して衝突し、重力波バーストが発生していたのである。

この偉業は苦難の末に達成されたものだった。アインシュタイン自身も重力波が存在するかどうかについて数十年にわたり結論を出せないでいた。たとえ存在したとしても、アインシュタインが想像しえた唯一の発生源、つまり周回する2つの恒星では、発生する波が弱すぎて検出できなかっただろう。しかし1960年代終わりになると、天体物理学者の間で質量密度がはるかに高い存在が知られるようになった。中性子星の発見を経て、ブラックホール(巨大な恒星が崩壊して無くなったあとに残される超高重力場)の存在が考え出されたのである。こうした物体が互いに渦を巻くように回転すると、理論上観測可能な波が生じる。1972年、米国ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学の物理学者Rainer Weissは、L字型の干渉計という光学機器で波を検出する計画を立て、後にLIGOとして実現される。LIGOの各干渉計には、全長4キロメートルのアームが2本あり、アームの片方の端には鏡がついていて、巨大な真空室に格納されている。レーザー光を2つの鏡の間で反射させることで、アームの長さを陽子の直径の1万分の1以下の精度で比較することができる。重力波が通過すると、たいていの場合、2本のアームの長さの伸び縮みに違いが生じる。LIGOの研究チームはこの違いを確認したのである。この最初のシグナルと計算によるモデルとがぴったり一致したことから、今回初めて、一般相対性理論として知られるアインシュタインの重力理論が実証された。

現在、物理学者は次に起こる出来事を心待ちにしている。重力波を利用すれば、まったく新しい方法で宇宙をのぞき見ることが期待できるからだ。何よりもまず、彼らはさらに多くの出来事を確認したいと考えている。すでにLIGOは2番目となるブラックホールの合体と、3番目となる弱いシグナルを検出している。干渉計は先月再びデータを取り始めており、設計感度に達すれば、ゆくゆくはブラックホールの合体を平均1日1回確認できるようになるだろう。

その他の装置も、この探求にまもなく加わることになっている。イタリアでは改良された検出器「VIRGO」が来年早々に稼働する予定である。日本の物理学者は「Kamioka Gravitational Wave Detector(KAGRA:かぐら、神岡重力波検出器)」を建設中であり、LIGOの物理学者は2020年代前半にインドにも検出器を設置する計画を立てている。3つ以上の検出器を協働させることで、三角測量によって宇宙における発生源の位置をより正確に特定できるはずである。そうすれば複数の望遠鏡を使って1つのイベントに狙いを定め、そこから発せられる他のシグナルを検出できるかもしれない。たとえば、もし重力波検出器で2つの中性子星の合体を感知し、望遠鏡でそこから発せられる光やX線をとらえれば、それらのシグナルを総合することで、中性子星のエキゾチック物質に関する手掛かりが得られる可能性もあるのだ。

こうした検出器を使えば、ブラックホールに関するより大胆なアイデアの検証もできるだろう。量子論では、ブラックホールの中には目に見えない「ファイアウォール」が存在し、ブラックホールへ落ち込んだものをすべて消滅させるとされている。もしそうならば、合体しつつあるブラックホールでは重力波の反射が起こるはずだ、と一部の理論家は予測している。また他の理論家は、回転するブラックホールではアクシオンという仮説粒子が大量に発生し、そのアクシオンが一斉に互いを消滅させる結果として重力波が生じる、と推測している。

一方、別の方法で重力波を検出しようとしている天文学者もいる。大きな銀河の中心には、太陽質量の数億倍または数十億倍ある超大質量ブラックホールが潜んでいる。こうした怪物同士が合体すると、数光年の波長をもつ非常に強い波を放射する。LIGOなどの装置が検出できる数千倍波長である。こうした波を確認するために、天文学者はミリ秒パルサーという宇宙の時計に注目している。

パルサー(自転する中性子星)は驚くほど規則正しい電波パルスを放射している。長い波長の重力波が地球に打ちつけると、地球は波に押されて、あるパルサーには近づき、またあるパルサーからは遠ざかる。次にこの動きのために、パルサーが発するパルスの間隔が、ドップラー偏移に似た効果により、パルサーの方向によって短くなったり長くなったりする。その結果生じるパルサーのタイミングの違いと相関関係から、波長の長い重力波の不協和音が明らかになるはずであり、また波長の長短によるスペクトルから、宇宙の歴史を通じて銀河が形成と合体を行ってきたペースを追跡できるだろう。米国、ヨーロッパ、オーストラリアの各研究チームは、2、3年以内にシグナルを確認したいと考えている。しかし米国の取り組みは、現在使用している2つの電波望遠鏡への資金援助を全米科学財団が打ち切る予定のため、危機にさらされている。

今後、「Laser Interferometer Space Antenna(LISA:レーザー干渉計宇宙アンテナ)」の打ち上げも予定されている。LISAの3つの衛星は、車輪のように回転しながら共に太陽を周回しており、一辺が数百万キロメートルの三角形をした干渉計になるため、LISAは数百万から数十億キロメートルの波長をもつ重力波を感知することが可能になる。この波長は、LIGOの波長域である数千キロメートルとパルサーのタイミングである数光年との間になる。

この波を利用して、LISAは比較的小さな超大質量ブラックホールの合体でも、パルサーのタイミングよりもはるかに高い精度で追跡することができる。LISAは、LIGOのような地上設置型装置が2つのブラックホールの最後の衝突を確認するより前に、それら2つのブラックホールが互いに向かって渦を巻きながら時間をかけてゆっくりと巻き上げられていくのを確認できるはずだ。またLISAは、天の川銀河の中心で超大質量ブラックホールに落ち込んでいく恒星質量ブラックホールも検出できることから、物理学者はこの巨大モンスターをきわめて詳細に研究できるようになるだろう。

LISAはもともと数十年前にNASAと欧州宇宙機関(ESA)の合同ミッションとして計画されたが、米国は予算の制約を理由に2011年に撤退した。現在、NASAは計画の再開を望んでいる。ESA当局者は約15億ドルのミッションを2034年に開始したいと考えており、その頃に次世代の地上設置型の検出器を建設する予定もある。

マイクロ波望遠鏡で宇宙のマッピングが可能になれば、生まれたばかりの宇宙にさざ波を立てて現在は宇宙に広がっている、最も波長が長く最も古い重力波の痕跡さえ、間接的ではあるが見つかるかもしれない。原初の重力波は、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射に痕跡を残している可能性がある。それを見つければ、誕生間もない宇宙が膨張と呼ばれる指数関数的な急成長をとげたことが裏付けられるだろう。

重力波の発見によって科学の地図が塗り替えられた。新たな科学が目前に迫っている。

LIGO

米国ワシントン州(写真)とルイジアナ州にある一対の検出器LIGOが確認したシグナルは、非常によく似ている。