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Breakdown of the year:過去に対する暴力行為

Elizabeth Culotta

Science's Breakdown of the Yearは、イスラム国(IS)の、古代遺跡の破壊や考古学者の殺害により過去を抹殺しようとする活動であった。科学における他の後退としては、性差別主義的な態度の表面化やセクシャル・ハラスメント、および巨大望遠鏡建設に対する裁判所の差し止め命令などがあった。

2000年間にわたり、巨大なバール神殿の荘厳な列柱は、今日のシリアの砂漠の中にある、古代都市遺跡パルミラに建っていた。神殿のフリーズ彫刻には、この東西の古代交易路の歴史が刻まれており、パルミラ王国の「戦士女王」ゼノビアによる、王国滅亡をもたらしたローマに対する反乱から、2つの世界大戦に至るまで、何世紀もの戦乱の歴史に耐えてきた。ところが2015年8月、イスラム国(IS)として知られるグループが意図的に神殿を爆破したことにより、21世紀の爆発兵器とこれまで紆余曲折を経た7世紀の世界観という組み合わせが神殿の歴史を完膚なきまでに破壊するという結末を見た。

UNESCOのイリナ・ボコヴァ事務局長は、最近DAESHとも呼ばれるこのグループが古代都市の象徴たる凱旋門を破壊した後の10月に、「パルミラ遺跡は、宗教過激派が嫌悪する全てを、すなわち文化の多様性、東西の文化間の対話を、東西の接点にあるこの交易都市におけるあらゆる民族に属する人々の出会いを象徴している」と述べた。

ユネスコの世界遺産であるパルミラ遺跡は、ISグループがシリアとイラクの各地で暴虐をふるい、地元住民を殺戮し、考古学遺跡を含めてその文化を破壊する中で、2015年に被害を受けた考古学上の驚異すべき遺産の1つにすぎない。破壊されなかったものも、略奪されたり売却されたりし、いずれにしても人類と考古学研究における喪失をもたらした。American Schools of Oriental ResearchのCultural Heritage Initiativeで学術主任を務めるマイケル・ダンティは、「私は、[それ」は第二次世界大戦以後の最悪の文化遺産の危機だと考える]と述べている。

この地域は、人類最大の発明のいくつかの誕生地であり、その中には最初の農耕社会、最初の記録文書、そして最初の帝国が含まれる。ここはまた、その後の時代の主要な世界遺産を擁している。このため、ISグループが2月に、イラク北部のモスル博物館で男たちが彫像に向かって大きなハンマーを振り上げ、紀元前8世紀に遡る新アッシリア時代の彫刻である巨大な「有翼の雄牛」の主要部分をドリルで粉砕している動画を公開した時に、考古学者たちは震え上がった。4月初めには、ISグループは、イラクの世界遺産ハトラのモニュメントを破壊し、遺跡をブルドーザで粉砕した後、古代アッシリアの都市であり、やはり世界遺産となっているニムルドに向かい、同じ行為に及んだ。「非イスラム的な」もの
をすべて「浄化する」と称して、イスラム国兵士たちは、現在と古代の両方における宗教の多様性を証言するモスクや教会、神殿などの、無数の小さな遺跡を組織的に破壊した。

主要な遺跡の多くはこれまで、盗掘や、戦乱に伴う損傷をこうむってきた。しかしISグループはこれらの遺跡を、文化の浄化を掲げたキャンペーンの標的とした。主要な遺跡では、台本のある演出作品として爆発が引き起こされ、最大の宣伝効果をあげるタイミングで写真と動画が公開された。その間にISグループは、盗掘作業を産業規模で展開し、発掘した物品を売却しており、その大きな収入源としている。衛星写真では、盗掘による穴が主要遺跡の至る所に認められ、貴重な考古学遺産が失われていることを示している。

5月にシリア東部を急襲した米軍特殊部隊は、明らかに遺物の売却に深く関与していた、アブ・サヤフとして知られる人物を殺害した。特殊部隊は、大規模な盗掘を示唆する、貨幣を含む考古学遺品の隠し場所を発見した。その一部は模造品であることが分かったが、イラクの博物館の資料番号が付いたままのものもあった。ダンティによれば、盗掘の大部分は売却目的であり、特にヘレニズム、ローマ、ビザンチンの時代が標的とされている。

パルミラでは、ISグループは考古学遺産に対する攻撃と組み合わせて、地元の人たちへの残虐行為を行った。ISグループは、捕虜にした兵士50人を古代都市の劇場で処刑し、捕虜を列柱に縛り付けておいて列柱を爆破した。また、パルミラ遺跡の研究と保護に人生を捧げてきたシリア人の考古学者である82歳のハレド・アサド氏を斬首した。他にも多くのイラク人やシリア人が、遺跡を保護するために危険に曝され、命を落としている。

ユネスコといくつかの提携団体は現在、5,000台のカメラを配布して、中東に存在する多くを含め、ISグループの脅威下にある遺跡と遺品を記録するというプログラムを進めている。また諸機関も、盗掘された物品の売買を減らすための取り組みを行っている。ペンシルベニア大学考古学人類学博物館と提携機関により実施されているもう1つのプログラムでは、最近では第二次世界大戦中に広く用いられた技術を利用して、脅威に曝された遺跡を保護し、遺品を素早く梱包するために、現地のイラク人に対する訓練を行っている。6月にアレッポから少し離れたアル・マアッラにあるモザイク博物館の周辺で戦闘が激化した際、収蔵された傷みやすいフレスコ画が土嚢の中に詰められ、ほとんどが無事であった。これは、世界遺産にとって恐るべき年における小さな勝利であった。


Breakdownの次点候補
Breakdown runners-up


科学における性差別主義
SEXISM IN SCIENCE

2015年は、科学における性差別主義的態度という弱点が露わになった。4月に、PLOS ONEの査読者1名が、2名の(女性)科学者に対して、その論文の質を高めるためには男性共著者を1名加えることが是非とも必要であると提言した際、ツイッター上で炎上が起こった。6月にノーベル賞受賞者ティム・ハント氏が聴衆の前で、研究室に女性がいると、「研究者が女性に恋をし、女性が研究者に恋をする」と述べた際にも、多くの弁護者は氏の発言は下手なジョークだと言い訳したが、この時もツイッター上で炎上が起きた。次いで10月に、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)の著名なジェフ・マーシー教授が、女子学生に対して体をまさぐる、キスする、触れるなど、10年間にわたり大学のセクシャルハラスメントポリシーに違反する行為を繰り返し行っていたことが明らかになった。このような残念なニュースが連続したにもかかわらず、これらが明るみに出たことは有益な効果をもたらした。PLOS ONEは当該査読者と関与した編集者を解雇し、ハント教授に対して女性たちは「気が散るほどセクシー(#distractinglysexy)」というハッシュタグを付けて反撃し、研究分野と研究室の設備で飾られて科学に取り組む自分たちの写真を投稿した。マーシー教授については、国内の憤激の世論が大きくなりすぎたため、教授は10月14日付でカリフォルニア大学を辞職した。

30メートルの望遠鏡
THIRTY METER TELESCOPE


2015年には、米国で最大の光学望遠鏡を建造するという計画が、地元住民の権利および信念と、正面から衝突した。

Thirty Meter Telescope(TMT)の建設者らは、2014年10月、ハワイのマウナケア山におけるこのプロジェクトの着工式が、反対住民たちによって中断された時に、厄介なことになるとうすうす感じた。マウナケア山はハワイの宗教において聖なるものとされており、すでにその頂上には13基の望遠鏡が密集しているにもかかわらず、反対住民たちは巨大なTMTは神聖な山を汚すものだと主張したからである。

2015年3月以来、反対住民たちは建設チームが現地に入れないように阻止しており、10人以上が逮捕されている。1週間の建設中止は、無期限の中断へと至った。次いで12月に、ハワイ州の最高裁は、2011年にTMT'の建設許可が認められる前に、反対住民たちに自分たちの主張をきちんと述べるための時間が与えられなかったことを理由に、この建設許可は無効であると裁定した。これは、建設を数年単位で遅らせる敗北であった。この望遠鏡は、宇宙についてこれまでになく明晰な宇宙の姿を見せてくれることを意図したものであるが、その見通しは、疑いもなく不明瞭である。


1800年の歴史を有するシリア、パルミラにあるローマ様式の凱旋門が、イスラム国グループの手により破壊され、消滅した。

元の記事を見る(英語):http://www.sciencemag.org/content/350/6267/1464.2