Breakthrough of the Year : The Runners-Up -第2位から第10位まで-
- Breakthrough of the Year : Ardipithecus ramidus -第1位 アルディピテクス・ラミダス-
- Breakthrough of the Year : The Runners-Up -第2位から第10位まで-
- Virus of the Year : The Novel H1N1 Influenza−2009年のウイルス:新型H1N1インフルエンザ
- Breakthrough of the Year : Scorecard -評価-
- Breakdown Revisited: Trying to Stay Afloat−経済崩壊再び:沈まない努力
- Breakthrough of the Year : Areas to Watch -注目すべき分野-
「ガンマ線の空間を拓く」
闇夜に点滅する灯台のように、パルサーも宇宙空間で回転しながら周期的に光を放ち、二重の円錐状になった電磁放射を全天に広げる。約40年前に最初のパルサーが発見されてからというもの、天文学者たちは発せられるパルス状の電波からこの謎めいた存在を何百個も発見してきた。今年になって、電波観測では発見できないパルサーを見つける新たな発見ルート――高エネルギーガンマ線スペクトル――が開拓された。この前進はガンマ線に関する最近の一連の観測結果によるものだが、これにより研究者はパルサーの活動についてより深く理解できるようになっただけでなく、重力波検出の探索に役立つような新たなパルサーを多数発見することができた。
この成果はフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(Fermi Gamma-ray Space Telescope)によるものである。フェルミは2008年6月に米航空宇宙局(NASA)が打ち上げて以来、宇宙空間のガンマ線のマッピングを続けている。国際チームは、打ち上げから数ヵ月の間にフェルミが収集したデータをつなぎ合わせ、16個のパルサーを新たに発見した。以前から知られていた8個のパルサーのガンマ線の波動は強力で、回転時間も数ミリ秒だが、これらのパルサーでは、電波領域の場合と同じようにガンマ線波長でも明るいパルスを発することが分かった。また、きょしちょう座47球状星団から高エネルギーガンマ線が発せられていることから、この星団に最高60ミリ秒のパルサーが存在することも示されている。
だが、こうしたフェルミの結果はまだ序の口かもしれない。パルサーの挙動に関する新たな知見を得た研究者たちは、フェルミが検出している未確認のガンマ線源のいくつかがパルサーなのかどうかを調査中である。11月だけでも、米国とフランスの天文学者のチームが、フェルミにより指摘されていた候補対象を地上電波望遠鏡で調べたところ、5個のミリ秒パルサーが新たに発見された。これは、地上電波望遠鏡で闇雲に全天を走査するよりも、目標を絞った探索方法としてはるかに優れている。
パルサーのガンマ線ビームは電波ビームよりも太いと考えられているため、基本的には地上電波望遠鏡よりも宇宙ガンマ線望遠鏡のほうがパルサーに遭遇し、その放射を識別する可能性が高いはずである。ただ、フェルミの「前任者」であったコンプトン・ガンマ線観測衛星(Compton Gamma Ray Observatory)――1991年から2000年まで活動――は、パルサーを発見する幸運にはそれほど恵まれなかった。その違いは感度である。フェルミのほうが高感度のため、コンプトンでは検知できない弱い波動を捉えることができるわけである。
フェルミによる発見の数々は、すでにパルサーの物理的性質に新たな光を当ててくれている。研究者は、パルサーは高速回転する中性子星であり、その強力な磁場により粒子の速度を加速して光速に近づけ、極から発射することを知った。こうした物質の高温ジェットがガンマ線を放出するのである。しかし、その磁場の構造はどうなっているのか、また粒子ビームが放出される正確な場所はどこなのだろうか。あるモデルでは、ジェットは極冠から中性子星の表面に噴出するとされるが、別のモデルでは、ビームは極の上、数千キロメートル離れた宇宙空間で発生するという。
天体物理学者によると、フェルミが観測したパルサーからのガンマ線放射の分析結果は、極冠モデルに大きな打撃を与えたようである。極冠モデルに反して、観測結果からは、放射の大部分が外部磁気圏のある場所で発生していることが示されている。このようなパルサーの活動の精密な検討は電波を観測するだけでは不可能であろう。なぜなら、電波はパルサーの全エネルギーのごくわずかな部分しか占めていないからである。これに対して、ガンマ線は放射物のかなりの部分に相当する。
天体物理学者によれば、パルサーの研究結果は、今後もまださまざまなタイプの宇宙の存在が発見されることをうかがわせるものである。フェルミが発見した1,300を超えるガンマ線源には、スターバースト銀河、ガンマ線の爆発、銀河の中心部に存在するブラックホールなどが含まれる。11月には、地上ガンマ線望遠鏡のチームがフェルミを併用し、宇宙空間に認められる宇宙線や高エネルギー粒子の発生源を、爆発している星の内部にまで追跡することで、長年の謎を解明した(Science, 11月20日号、p. 1047)。新たなパルサー自体も、研究者が重力波、つまり時空構造内のリップルを検出するうえで役立つ可能性がある。これにより、最も高速で回転するパルサーの回転速度に明らかな変化をもたらすはずである。

CREDIT: NASA E/PO, SONOMA STATE UNIVERSITY, AURORE SIMONNET
閃光
パルサーCTA 1はフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が発見した数々のパルサーの1つ。
「ABA受容体」
植物にはアドレナリン放出下での「闘争‐逃走反応」という行動パターンはないが、これに相当するものとしてアブシジン酸(ABA)と呼ばれる化学物質による反応がある。厳しい生育環境下にある時期には、ABA濃度の上昇によって種子は休眠状態に保たれ、水分の喪失や根などの生長が抑制される。この重要な植物ホルモンの受容体は、植物生物学者らを誤ったアプローチに導いて研究を混乱に陥れてきたため、その同定は困難であった。しかし今年5月、2つの研究チームが異なるアプローチによって同一ファミリーの蛋白質をABA受容体として同定した。そして秋の終わりには、他の複数の研究グループがABAとPYR/PYL/RCAR蛋白質との関連を確認した。この分野の第一線の研究者は「ABA受容体に関する研究はついに成功した」と述べている。
ドイツの研究チームは、ABAの作用を促進することが判明しているABI1およびABI2と呼ばれる酵素に結合する蛋白質を探ることによってABA受容体の同定に迫った。彼らは2つの蛋白質を発見し、「ABA受容体制御成分(regulatory component of ABA receptor:RCAR)」と命名した。カリフォルニアの研究チームは、ABAの作用を促進するピラバクチン(pyrabactin)と相互作用を示す物質を突き止めることによってABA受容体を同定し、PYR1と命名した。両研究グループは、それぞれが同定した受容体が、14個から成る同じ蛋白質ファミリーに属していることを発見した。
これらの結果は中国、日本、欧州および米国の研究者からも支持されている。ABAと受容体の結合、すなわち、ABAとPP2Cフォスファターゼ(ABAを機能させるにはこれを遮断しなければならない)と相互作用を示すABA受容体の結晶構造も解明された。この結晶構造は、PYR/PYL/RCAR蛋白質がペアになって扉付きのポケットを形成し、そこにABAが入り込み、ABAがポケットに入ることでペアになった分子が変形して「扉」が閉じ、その表面にPP2Cが結合するという仕組みになっている。
これらの結果は植物生物学にとって、そしてそれ以外の分野の生物学にとっても有益である。PP2CとABA受容体はどちらも高度に保存された蛋白質ファミリーに属している。植物におけるそれらの役割が判明したからには、その他の生物における役割も判明することが期待できる。

CREDIT: YUE MA ET AL., SCIENCE
受容体の位置
若木の青色部分に新たに発見されたABA受容体がある。
「単極子に似た擬似粒子、発見される」
ドクター・スースの有名な絵本『ハウ・ザ・グリンチ・ストール・クリスマス(How the Grinch Stole Christmas)』では、気難しがり屋の主人公が「トナカイが見つからないなら、作るよ!」と啖呵を切る。物理学者らもこの姿勢をまねて磁気単極子(magnetic monopole)と呼ばれる粒子を長い間探し続けている。いまだにそのような粒子は発見されてはいないが、ついに今年、2つの研究チームが磁気リップル、つまり、磁性結晶内で単極子のようにふるまう「擬似粒子」を作ることに成功した。
物理学者が知る限りどんな磁石にもN極とS極がある。しかし理論物理学者の間では、いずれかの極だけを持つ基本粒子の存在が予測されてきた。イギリスの理論物理学者であるPaul Diracは1931年、そのような単極子が存在することで電荷の量子化が説明できると論じた。単極子の存在は、電磁気力・弱い核力・強い核力を1つのものの異なった側面であると捉える「大統一理論(grand unified theories)」によっても予測されている。
9月に報告された単極子は、チタン酸ホルミウムやチタン酸ジスプロシウムといったスピンアイスとして知られている物質の中にのみ存在する。それらの物質の中では、氷の中の水素イオンのように、四角錐もしくは四面体の各頂点でホルミウムもしくはジスプロシウムの磁気イオンが回転する。低温では四面体内で2つのイオンはN極が内向き(四面体の中央を向く)、残りの2つのイオンはN極が外向きになっている。1つのイオンが反転すると、3つのイオンN極が内向きのアンバランスな四面体が1つ、また1つのイオンのN極が内向きの四面体が1つできる。スピンの反転が続くと、アンバランスな状態が自由に拡がり単極子のようにふるまう。
このような「スピン構造」は理論物理学者にとっても実験物理学者にとっても等しく研究対象である。今回観測された単極子はスピン構造の奥深さを端的に示している。

CREDIT: P. HUEY/SCIENCE
電極の分離
スピングラス内では、単極子は四面体を成し、イオンの1つ(青色の球)か3つ(赤色の球)が内向きになっている。
「長寿と繁栄」
これは16世紀スペインの探検家ポンセ・デ・レオンが夢見た若返りの泉――イースター島の土壌に含まれる細菌の分泌物――の話ではない。それどころか今年、ラパマイシンという化合物によるマウスの延命が明らかになったのである。初めて薬物で哺乳類の寿命が延びた。
医師は腎がんの治療や移植臓器の拒絶反応を抑えるために、ラパマイシンを処方する。米国立加齢研究所(U.S. National Institute on Aging)がネズミなど齧歯類の寿命を延ばしうる分子のリストにラパマイシンを加えて以来、このような候補薬の試験をしている米国の3つの研究所が、ヒトの60歳に相当する生後600日のマウスへラパマイシンの投与を開始した。齧歯類にラパマイシンを含んだ餌を与えたところ、寿命は9〜14%延びた。虫やハエでも同様の快挙が達成されていたものの、哺乳類では初の結果であった――しかも、こうした動物はすでに盛りを過ぎていたため、特に有望視された。
ところが、この薬物の作用機序に科学者は頭を抱えてしまった。ラパマイシンは、タンパク質合成から細胞分裂まで、すべてに関与するTOR経路を阻害する。しかし特異的な死因を修復することはなかった。マウスは潰瘍や心不全といった加齢によるあらゆる慢性病を発症していた。また、マウスは骨と皮ばかりになってはいなかったので、ラパマイシンがカロリー制限(CR)と同じように働くとは考えられなかった。CRは、マウスや他の実験動物の寿命を延長させる極端な食餌療法である。しかし、関連ありとみている科学者もいないわけではない。
一方、今年発表された別の研究によって、CRについての大きな疑問、すなわち、ヒトでも有効なのかという問にもう少しで答えられるところまで来た。霊長類では初の、アカゲザルを対象とした試験が20年前に始まっている。今では老化で死亡するアカゲザルも見られるようになったが、初期の結果は、こうしたアカゲザルは丸々と太った同年齢のアカゲザルよりも長生きしていることを示している。
ラパマイシンは免疫系を抑制し、CRに執着するのは熱心な信奉者だけである。したがって、いずれも実用的な長寿の薬になる可能性はない。研究者は、老化を遅らせる、あるいは少なくとも健康でいられる期間を延長するために、より好ましい代替薬の開発へと駆り立てられるであろう。

CREDIT: JUPITERIMAGES
メトセラマウス(長寿マウス)
ラパマイシンを投与した齧歯類の寿命は14%も延びた。
「月表面の氷の謎が明らかに」
今年、ついに惑星科学者たちは、月のように猛烈に暑い不毛の天体にも水氷が存在することを立証した。この研究成果は、数十億年前の環境記録を読み取ったり、太陽系の探査を刺激したりと、新たな展望を開いてくれた。
「月に氷」という発想はまったく突拍子のないものではない。1990年代初めに地球から水星をとらえたレーダーは、水氷らしきものが水星の衝突クレーター底下に埋まっていることを突き止めていた。この堆積物は極クレーターのみで認められたが、そこでは縁から底まで永久影になっており、必要とされる恒久的な低温度が保たれている。おそらく衝突した彗星や氷状小惑星(icy asteroids)の水が、永久影になったクレーター内部で何十億年もかけて少しずつ氷結したのだろう、というのが科学者たちの推論であった。軌道上のレーダーも極地域の月面クレーターに氷が存在することを示唆していたのだが、1998年に軌道上のレーダーが極地域に高濃度の水素(埋まっている水分子の一部と考えられる)を検知したのちもなお、この考えは相変わらず議論の的になっていた。
最終的には、永久に暗闇に覆われた極寒のクレーター、カベウス(Cabeus)に向けて、重さ2トンのロケット部分を時速7,200kmで衝突させたところ、数リットルの水が目撃された。8,000億ドルを費やした月面衝突探査機エルクロス(Lunar Crater Observation and Sensing Satellite:LCROSS)のミッションは、衝突時の水煙に水蒸気、氷、そして水由来のヒドロキシ基の存在を示すスペクトルの明確な特徴が認められた。
エルクロスは月の水源の証拠も公表した。センサーは、水氷とともに埋まっていた一酸化炭素、メタン、メタノールといった分子も検知した。これらはまさに彗星や氷状小惑星で発見される種類の化合物であり、したがって、少なくとも月面の数ヵ所には、数十億年の間に月面に衝突した天体の痕跡が認められる可能性もある。
氷となって保存された月表面の水は、何十億年にもわたる月面衝突の記録をとどめている可能性がある。また、宇宙飛行士はその水を飲むかもしれないし、その水で食用植物を栽培するかもしれない。あるいはその分子を水素と酸素に分解してロケット燃料に用いるかもしれない。ただ、1つ問題がある。絶対温度40Kという月表面でコアリング調査や採掘作業を行う方法をだれかが考えなければならないということだ。

CREDIT: NASA AMES/NORTHROP GRUMMAN
注目!
分離したロケット(写真奥)が月面に衝突したときに水しぶきが上がるのをエルクロス(写真手前)は目撃した。
「遺伝子治療再び」
遺伝子治療――DNAを修復して機能不全に陥っている細胞の回復を図る治療――は、単一遺伝子の異常による疾患に対する素晴らしい解決策となる。しかし、1990年にヒトを対象とした初の研究がスタートして以来、この分野は、試験中に被験者が死亡するなど、数々の技術的な問題や頓挫に直面してきた。そんな遺伝子治療だが、今年はついに峠を1つ越えたと言えるだろう。研究者からは以下のようないくつかの難治性疾患の治療に成功したという報告があった。
レーバー先天性黒内障(LCA)。これは幼児に発症するまれな遺伝性の失明である。米国と英国の研究者は、LCA患者の片眼にある遺伝子を載せた無害なウイルスを注入した。この遺伝子は、光感受性色素をつくるために必要な酵素をコードするものであった。完了した最初の臨床試験では、部分的な失明患者12人全員で光感受性の改善がみられた。4人の子供は、スポーツをしたり、学習支援なしで授業を受けることができるほど視力が改善した(同様のアプローチを用いた別の研究チームは、赤緑色覚異常を持って生まれたリスザルで完全な色覚を回復させた)。
X連鎖副腎白質ジストロフィー(ADL)。これは一般に小児に発症し10歳未満で死をもたらす脳障害で、神経線維を取り巻くミエリン鞘の維持に関与する蛋白質をつくる遺伝子の異常を伴う。フランスの研究チームは、ADLを発症している7歳の男児2人の血球に矯正遺伝子を挿入した。すると、いくつかの細胞が欠損していた蛋白質をつくり始め、脳内への移動が認められた。2年後にはADLに典型的である進行性脳障害が認められなくなった。これは無力化したHIVウイルスを用いて遺伝子を細胞に移した最初の試験でもあったが、従来のベクターよりもがんを発症させる可能性は低くなると考えられる。
「バブルボーイ」症候群。アデノシンデアミナーゼという酵素の欠損に起因する重症複合免疫不全症(SCID)。今年1月、イタリアの研究者がSCIDを有する子供たちを対象とした8年前の試験を再開したところ、患児10人中8人が酵素補充療法を必要とせず、通常の生活を送れるようになった(関連疾患であるX連鎖SCIDの遺伝子療法では、19人の幼児の免疫系が回復したものの、そのうち5人が白血病を発症し、うち1人が死亡した)。
他の遺伝性疾患に関する臨床試験の結果は間もなく公表されるとみられるが、新しくより安全なベクターを用いたさらに多くの試験の準備が進められている。

CREDIT: STEPHENVOSS.COM
成功
目の見えない患者は、酵素を作る遺伝子の修復治療を施した後に視力を一部回復。
「グラフェンが好調」
材料科学の進歩の足取りは往々にしてゆっくりとしたものだが、グラフェンの研究は急速に進んでいる。2004年に英国の研究者が、グラファイトの塊から炭素原子の単原子層シートをはがす簡単な方法を発見して以来、研究者たちは先を争うようにこの究極の薄膜の研究に取り組んでいる。今年になってその研究は新たな段階に達し、新たな基本的洞察をはじめ、大きなグラフェンシートをつくり、それを新たなデバイスに応用する方法など、一連の発見に至った。
グラフェンの大きな魅力は電子の伝導性が高いことにある。ほぼ完璧な原子配列――鶏舎用の金網のような炭素原子の格子状配列――により、電子はその中を超高速で流れることができる。こうした性質のおかげで、物理学者はこれを簡単な試験台として利用し、量子力学の特異な特性に関する実験を行えるようになった。例えば、先月にもニューヨークとニュージャージーの異なる研究グループが、グラフェンの電子は分数量子ホール効果を示し、そこでは1電子の分数電荷を帯びた複数の粒子のように集団でふるまうことを確認した。この挙動は、数十年前に多層半導体の一部では認められていたものの、このような単純材料では初めてのことである。
他にもこの単純さが物を言う領域がある。5月にテキサス大学オースティン校の研究者が、グラフェンフィルムを薄い銅はく上で伸ばして、最大1cm四方のフィルムを作成したことを報告。コーネル大学の研究チームはその技術に修正を加え、グラフェンをシリコンの薄片上で伸ばした。この2つの躍進によって、グラフェンを利用した多数の電子デバイス製造への道が切り開かれたのである。
のようなデバイスの進歩も著しい。1月にはIBMの研究者が、遮断周波数26GHzのグラフェントランジスターを開発したことを報告。これは従来のシリコントランジスターよりもはるかに高速である。マサチューセッツ工科大学の研究者も、グラフェンを利用して電子信号の周波数を逓倍する周波数逓倍器を開発しており、通信やセンサーへの新たな応用につながる可能性がある。さらに研究者は、小分子の重さを計測できるグラフェンスケールから超高速のグラフェン光検知器に至るまで、あらゆるデバイスを製造している。単純であるか否かにかかわらず、研究者はグラフェンを使って作業を一見単純化しているのである。

CREDIT: C. BICKEL/SCIENCE
電流の流れ
グラフェンの高伝導性に物理学者も電子工学研究者も研究意欲をかき立てられる
「蘇ったハッブル」
それはまるで牧草地へと追い立てられる年老いた馬車馬だった。ところが今年の秋、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が、19年前に打ち上げられて以来最高の画像を撮影するようになったのである。これは今年5月に行われた修理の最終ミッションの成功を受けてのことだが、それによってHSTの寿命はあと5年延びた。
米航空宇宙局(NASA)のショーン・オキーフ前局長は、望遠鏡修理のミッションを目的に2004年に予定しているスペースシャトルの打ち上げを中止すると発表した。それ以来、NASA内部ではHSTの存続させるための論争が続いていたが、このミッションはその論争に終止符を打つことになった。NASAの高官は必要な修理のためにロボットを送り込むことも検討したが、多くの専門家は、それはHSTの運命を決めることになりかねない非現実的な提案だと考えた。だが2006年、HSTの存続を訴える者たちは安堵のため息をついた。オキーフの後任者マイケル・グリフィンがNASAの宇宙飛行士に対し、望遠鏡の修理のためにスペースシャトルでの最後の旅の準備に入るよう命じたからである。
今年の5月、スペースシャトル「アトランティス」に搭乗した7人のクルーは地球から500km上空を飛行し、11日間に5回の宇宙遊泳をこなしつつ、複雑かつ危険な作戦行動を実行した。そしてついに、すべてのミッションを終了した。それには、広視野カメラ2(Wide Field Camera 2 :WFC2)の新しい広視野カメラ3への交換(画像解像度は10倍以上)、紫外線分光器(Cosmic Origins Spectrograph:COS)の取り付け(これによってHSTの紫外スペクトルの観測能力が高まる)、また既存の2つの装置、掃天観測用高性能カメラ(Advanced Camera for Surveys:ACS)と宇宙望遠鏡撮像分光器(Space Telescope Imaging Spectrograph:STIS)の調整などが含まれていた。
月9日、NASAはミッションの結果を公表し、バタフライ星雲やケンタウルス座のオメガ星団(球状星団として知られる)をはじめ、驚嘆すべき数々の恒星の壮観な画像を公開した。HSTが仕事を再開したのである。現在、HSTのデータを用いた科学的研究が急ピッチで進められている。例えば、ここ数カ月の間に、HSTは近くにある渦巻銀河M83の極めて詳細な画像を送ってきたが、これは星がその内部で誕生する様子を研究者が詳しく知るうえで役立つはずである。

CREDIT: MAI/LANDOV
グランドファイナル
最後の修理ミッションにより、HSTの寿命が延びた。
「世界初のX線レーザーの光」
今年4月、かつてないタイプの光が忽然と現れた。カリフォルニア州メンロパークにあるSLAC国立加速器研究所(SLAC National Accelerator Laboratory)の物理学者は、この世界初のX線レーザーのスイッチを入れた。線型加速器コヒーレント光源(Linac Coherent Light Source:LCLS)と呼ばれる130メートルもある新型施設は、研究所の3kmに及ぶ線型粒子加速器によって作動する。この施設は4億2,000万ドルを費やしたユーザー機能の核になる部分であるが、建設に3年を要したものの、研究者が施設を始動させるには2時間とかからなかった。
LCLSは1つのツールであるが、これまでの装置と比べて定性的にはるかに進歩していることから、まさに「ブレイクスルー」と呼ぶにふさわしい。過去数十年にわたって、科学者たちは物質の原子スケールの構造を精査するのにX腺を使ってきたが、輝度が従来のX線源の10億倍というLCLSは、パルス幅も200万分の1ナノ秒と短く、進行中の化学反応の静止画像も十分に撮影することができる。簡単に言えば、LCLSは原子スケールの空間分解能と時間分解能とを兼ね備えた初の装置だということである。また、コヒーレント量子波でX線を発生させるため、研究者は従来のレーザー用に開発された技術を借用することもできる。
10月にはLCLSを使った実験がスタートした。科学者たちは1分子の標本から蛋白質の構造を確定したい、あるいは物質のあらゆる原子から内殻電子を破り取り、物質がどう反応するのかを調べてみたいと考えている。ただ、シンクロトロンと呼ばれるX線源がすでに構造生物学者や材料科学者に大きく貢献していることを考えると、いったいこの最新式のLCLSに何が期待できるのかという疑問も湧いてくるが、科学者たちも「これで何ができるのだろう」と自問していることからも分かるように、LCLSというのは、だれひとり予想もできない飛躍的進歩をもたらす可能性を秘めた、今までにないまったく新しいものなのである。

CREDIT: BRAD PLUMMER/SLAC
X線ビーム
LCLSの磁石(上の写真)を通して疾走する電子が多量のX線を生成。







